『1:99 電影行動』(ジョニー・トー/チャウ・シンチー/ピーター・チャン他多数)

1:99 電影行動

ジョニー・トー第11弾。

SARSの被害に見舞われた香港を勇気づけるため、香港映画界が結集したオムニバス映画。

DVDには11の短編(それぞれわずか1分くらい)からなる本編と、そのうち5つのオリジナルバージョン(それでも各々5分もないです)、さらに本編よりずっと長いメイキングが収められています。

11の短編はどれも楽しめますが、ずば抜けて素晴らしいのはピーター・チャン監督の『2003年春・追想』。オリジナルバージョンの方がさらにいいです。

1:99 電影行動 トニー・レオン

外には人一人いない香港の街。
どんよりと曇った空だけでなく、街全体をモノクロにした映像の雰囲気が素晴らしく、降りしきる雪。
そこをたった一人歩くトニー・レオン。

彼の必殺の物憂げな表情と、モノクロの街並み、バックに流れるのはベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番≪月光≫。

喫茶店にはマスクをかけた女性。
窓越しに視線を交わす二人。

ビルの無数の窓からは、マスクをかけた人々が下を見下ろしています。

そんな光景を見上げながら、一人街を彷徨うトニー。

そこへ、患者を乗せたストレッチャーを走らせる医師や看護婦の姿。
しかし、勢い余って転倒してしまいます。

倒れた一人が、悔しさと怒りで地面の氷を叩くと、氷に入るヒビ、かすかに晴れ間を見せる空。

変化を感じる人々。一人、また一人と足で地面を踏みならします。
先ほどの窓から見える人々も窓を叩きます。

地面の氷が解け、絶望に沈んだ人々の心も解け、晴れ間を見せる空。突き抜けるような真っ青な空。

ビルの窓から見える人々は、かすかに笑みを浮かべながら涙を流しています。その顔にもはやマスクはありません。
その中には、カメラを首からぶら下げたクリストファー・ドイルの姿も。

1:99 電影行動 クリストファー・ドイル

色を取り戻した街並み、街に溢れ出す人々。

そんな光景に、うっすらと目に涙を浮かべながら、思わず笑みをこぼすトニー。
『インファナル・アフェアIII 終極無間』での、ファンサービスとしか思えないあのわざとらしい笑顔とは違います(笑)
このトニーの笑顔は絶品で、この笑顔を観るためだけでもこの映画を観る価値はあると思います。

さすが傑作『ラヴソング』を撮ったピーター・チャン。
時間にしてわずか4分4秒、台詞も一つもなしで、トニー・レオンの表情の変化だけで見事に表現しきりました。

ですが…。

この素晴らしいピーター・チャンの『2003年春・追想』も吹き飛んでしまう怪作が、11編の先陣をきる『狂想曲』。これもオリジナルバージョンの方がさらにいいです。
監督は、もちろんジョニー・トー!いつものように盟友ワイ・カーファイとの共同監督です。

何が凄いって、アンディ・ラウの髪型が凄い(笑)
アンディはギター片手に歌も披露し、サミー・チェンもブサイクメイクで参戦、さらにラウ・チンワンとチャップマン・トウが絡み、とどめは“財運の神様”として七福神もびっくりの衣装で登場するラム・シュー!

1:99 電影行動 ラム・シュー

いやあもうたまりませんねこれは。
トニー・レオンの絶品の笑顔も全て吹き飛びます(笑)

それでもこの映画で一番感動的だったのは、メイキングに入っている香港電影金像奨での司会者エリック・ツァンのスピーチでした。
この必見の名スピーチは観てのお楽しみということにしておきます。

2003年、数年来続く不況に加え、イラクでは戦争が始まり、SARSの猛威は人々から自信と生きる力を奪い取り、追い打ちをかけるようにレスリー・チャンまで失った香港。

つらく、苦しく、先が見えない中、それでも一歩を踏み出すということ。

「踏み出せば
その一足が道となり
その一足が道となる」
~アントニオ猪木『道』より~

『インファナル・アフェア』で底力を見せつけた香港映画。

そして、その傑作続編を抑えて『マッスルモンク』が作品賞・主演男優賞・脚本賞の三冠を獲得してしまう素晴らしい香港映画界。

いつもいつも、世界中の観客を笑わせ、楽しませてくれる香港映画。

そこに暮らす全ての人々が、取り戻した笑顔を二度と奪われることがありませんように。

 

1:99 電影行動 [DVD]

[原題]1:99 電影行動
2003/香港・フランス/15分
[監督]ジョニー・トー/ワイ・カーファイ/フルーツ・チャン/テディ・チャン/ツイ・ハーク/チャウ・シンチー/ジョー・マー/メイベル・チャン/アレックス・ロウ/ダンテ・ラム/ゴードン・チャン/ブライアン・チェ/アンドリュー・ラウ/アラン・マック
[出演]アンディ・ラウ/トニー・レオン/ラム・シュー/クリストファー・ドイル他多数

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