『秘密と嘘』(マイク・リー)

秘密と嘘

またまたイギリス映画から。1996年度カンヌ映画祭パルム・ドール(最高賞)受賞作。

ロンドン近郊の下町のアパートで暮らすシンシアと、父の顔を知らないロクサンヌという二人きりの親子。
しかし、実はシンシアには16歳の時に出産し、顔も見ずに養子に出したもうひとりの子供がいた。
ある日、シンシアに自分の娘だと名乗るホーテンスから電話があり…。

たいした事件も、大きな出来事もなく、人間関係と人の感情だけで見せる、これぞ映画という1本。

脚本なしで映画を作ることで有名なマイク・リー監督。
その代わりに、一人一人の俳優と個別に、徹底的に役の人物作りをするといいます。
他の俳優と顔を会わせるのは、撮影に入ってそのシーンに至ってからという徹底ぶり。
単なる即興を超えたリアリズムはここから生まれています。

この作品でも、シンシアとホーテンスが初めて待ち合わせをするシーン。
相手の役者の顔も知らないため、待ち合わせの相手がすぐ目の前にいるのにわからないという、このシーンのリアリティーはずば抜けています。

それにしても、即興でこれだけの会話を続けていく役者たちに脱帽。これができる役者はそうはいないのではないでしょうか。
唸る演技というのはたまにありますが、この映画のブレンダ・ブレッシンは超絶もの。
弟役のティモシー・スポールも良過ぎ!

どのシーンも素敵ですが、初めて会ったシンシアとホーテンスがカフェで並んで座るシーンのブレンダ・ブレッシン凄すぎ!

そして、怒涛のラスト20分。
バーベキューを囲むシーンの何気ない会話、これがほんとに全部アドリブだとしたら、役者たち凄すぎます。

秘密と嘘 マイク・リー

いよいよ、それぞれが抱えている「秘密」が次々と明らかにされていきます。
ほんの小さなことも含めれば、誰でも何らかの「秘密」をもっているもの。
言わない方がいいこともあるかもしれません。

でも、ほんとの意味で前に進むためには、全てをぶつけて初めて人は前に進めるというのを、改めて思い知らされました。

それにしても弟のこの言葉、「秘密と嘘、皆傷を持ってる、分け合えば?」
自らを相手を許し、理解し合い、痛みを分かち合うということ。

それでも、シンシアも言うように、「人生っていいわね」

 

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[原題]Secrets & Lies
1996/イギリス/142分
[監督]マイク・リー
[出演]ブレンダ・ブレシン/ティモシー・スポール/フィリス・ローガン/クレア・ラッシュブルック/マリアンヌ・ジャン=バプティスト/エリザベス・バーリントン/リー・ロス

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