「どうして3年前にしてくれなかったの」
ラブシーンの凄さの噂ばかりが先行していた本作、それを楽しみに観に行ったのも正直なところですが、果てさて…。
傑作。
以上。
で終わりたいところですが、そうもいかないのでつらつらと。
以下、ネタバレ全開。
未見の方は、ご注意下さい。
凄いですよこれ。
トーさんの『無味神探』が79分であれだけのドラマを描ききったように、90分もあればかなりの物語が描けるのが映画。
無駄に長いハリウッドのアクション映画でありませんが、120分ですら長いと感じるところに、158分。
が、ちっとも長くない。というより、削るべきシーンなんかこれっぽっちもない。
初めは、学生たちの気楽な考えだった。
初めは、幼い淡い恋心だった。
それが、“演技”が“現実”へと変わった時、もはや後戻りは許されなくなる…。

噂の性描写ですが、どのシーンもなくてはならないシーン。
何回か行われるその行為の、その描写の移り変わりで、二人の関係、思いの交差を全て描ききっていると言ってもいい。
イーほどの男が、チアチーが本物のマダムでないことくらい、わからないはずはなく、それは、最初にアジトに行った時点でわかったことでしょう。
不自然に家の中へと誘い、突然家中の明かりが消えたあの時に。
それでも、誘いをかけたのはイーの方。
最初の時にあそこまで暴力的になったのは、征服欲と、文字通り“殺されないため”。
終わった後のタン・ウェイの微かな笑み。
彼女は“落ちた”と思ったでしょうが、もちろん小娘に騙されるイーではないわけで。
それが、2回目、まだ攻守は逆転していないものの、そこに圧倒的な上下の関係はない。
そして、3回目、ついに攻守が逆転する。
あれだけの体位が必要かどうかは別として(笑)、ベッドの上だけで二人の関係を描ききったアン・リーは凄い。

「逃げて」、“落ちた”のはチアチーの方だった。
しかし、“愛してしまった”のはチアチーだけではなかった。
有無を言わさず署名を求められ、愛する女を処刑するしかない男。
普通こういうシーンは、そのまま映すか、良くてフェイドアウトして銃声だけですが、銃声すら流さなかったアン・リーはさすが。
それにしても、タン・ウェイ。
天下のトニー・レオンが完全に喰われてます。別の意味でも喰われてますが(笑)
トニーとこれだけ互角以上に渡り合うのって、『ブエノスアイレス』のレスリー以来では?
チアチーの最初の動機付けが弱いとか、弱点もなくはないですが、観た後いつまでも余韻が残る、“映画”を観たなぁという思いに浸れる、アン・リー監督158分の渾身の傑作。
必見。
[原題]色・戒
2007/アメリカ・中国・台湾/158分
[監督]アン・リー
[音楽]アレクサンドル・デスプラ
[出演]トニー・レオン/タン・ウェイ/ワン・リーホン/ジョアン・チェン
カリーナと共に映画を鑑賞した友人によると、3回あるベッドシーンのうち、特に2回目についてカリーナ自身が「本番」かもしれないと驚いていたという。 via: Record China まあ大概この手の記事は大袈裟に書いてあるもの[…]