『レッドクリフ Part Ⅱ -未来への最終決戦-』(ジョン・ウー)

レッドクリフ Part Ⅱ -未来への最終決戦-

「デブ助、また肩車してやる」

待ちに待った『レッドクリフ Part Ⅱ -未来への最終決戦-』観てきました。

“未来への最終決戦”という勘弁してくれ…なサブタイトルにがっくりし、『レッドクリフ Part I』に続いてまたも登場するオープニングの“日本語による解説”に脱力し、それでも、ジョン・ウーならやってくれる!と、期待度はMAXに。

2時間半を費やした壮大な“前ふり”だったPart I、さあ、大スペクタルを見せてくれ!なわけですが、ここからさらに引っ張ります、約1時間半。

さすがは一番好きな西部劇に『ミスター・ノーボディ』を挙げるジョン・ウー、サム・ペキンパーと共に、セルジオ・レオーネの遺伝子もしっかりと受け継いでいるということでしょう。(『ミスター・ノーボディ』はトニーノ・ヴァレリの監督作ですが、レオーネの影響大。詳しくは感想を参照)

『ウエスタン』のブロンソンとヘンリー・フォンダの決闘。
ブロンソンが最初に立ち位置を決めてから、なんと6分引っ張ります。6分ですよ6分。
30秒でも、早く撃たんかい!と痺れてきますが、ありえない6分です。
しかも、レオーネが偉大なところは、その6分間、全く緊張感が途切れないこと。

ペキンパーから“スローモーションの美学”を受け継いだジョン・ウー、今回はレオーネから受け継いだ“引っ張りの美学”が炸裂。
2時間半前ふりをやったのに、さらに1時間半引っ張るとは(笑)

引っ張ったら引っ張った分だけ、炸裂した時の威力は増すというもの(必ずしもそうとは言えませんが)。

東南の風が吹いてからは、“お金かかってます”という大スペクタルが開始。
“連環の計”はどうした!龐統は登場すらしないじゃないか!黄蓋の「苦肉の計」はあっさり却下かい!と、三国志ファンとしては突っ込みどころも多々あるわけですが、“そんな細かいことはどうでもいいじゃん”という、ジョン・ウーの“オレ流三国志”をこれだけ派手にぶちかましてくれたら、もう好きにしてくれと言うしかありません。

レッドクリフ Part Ⅱ -未来への最終決戦- 火計

しかも、ドッカンドッカン派手なことをやっているようで、ジョン・ウー十八番の“男ならこれで泣け!”もちゃんと炸裂。

ここでようやく冒頭の台詞となりますが、尚香と孫叔材のエピソード。

普通に考えれば、孫権の妹である尚香が単身敵陣に乗り込むなど、いかに彼女がお転婆とはいえ、ありえません。
ですが、ありえるかありえないかは、ジョン・ウー映画では些細なこと。
燃えるか、泣けるか、その前では他の全ては百歩後退するのがジョン・ウー映画。

デブ助に気付いた孫叔材の表情が一瞬緩み、激戦の中、再び心通わせる二人。
その一瞬の隙に矢を射られる孫叔材。ただ彼を抱きしめることしかできないデブ助。
「デブ助、また肩車してやる」
“男ならこれで泣け!”なジョン・ウー節が炸裂した、全5時間の中で最高の名場面。

レッドクリフ Part Ⅱ -未来への最終決戦- ヴィッキー・チャオ

もう一つ、単身曹操の元に乗り込んだ小喬。曹操が彼女の点てたお茶を飲むシーン。ここも屈指の名場面。
Part Iではただのイメクラ好きのエロおやじだった曹操ですが、今回は違います。

小喬が時間稼ぎをしているなどということは、曹操ともあろう男、百も承知でしょう。
彼女のお茶に完全に心奪われているように見えながら、しっかりと風に揺れる蝋燭の火を見ています。ここを見逃してはいけません。

全てを承知で、それでも小喬の茶を飲まずにはいられなかった曹操。
曹操の圧倒的な孤独と、決して叶わない小喬への切ない想い。
ジョン・ウーにこんな演出ができるとは!

レッドクリフ Part Ⅱ -未来への最終決戦- リン・チーリン

あと、普通「赤壁の戦い」は曹操の水軍が燃えて終わりですが、その後の地上戦もしっかり描いているのが素晴らしい。
燃えるシチュエーションの一つ、攻城戦。
盾を使った城壁への迫り方、防御側の投石機などなど、見所十分。

レッドクリフ Part Ⅱ -未来への最終決戦- 攻城戦

さらに、中村獅童扮する甘興は今回も美味しいところをもっていき、趙雲に至っては、ブブカ顔負けの槍を使った棒高跳びまで。
ここでも、ありえるかありえないかではなく、どうやったら絵になるか、さすがジョン・ウー、わかってますね~。

レッドクリフ Part Ⅱ -未来への最終決戦- 中村獅童

赤壁の戦いといえば、これまた名場面の曹操と関羽のエピソードがあるわけですが、それは完全にカット。
このように、不満点もいろいろあるわけですが、それを補って余りある“男ならこれで泣け!”なジョン・ウー流三国志。

今回も大満足でした。

 

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[原題]赤壁:決戰天下
2009/アメリカ・中国・日本・台湾・韓国/144分
[監督]ジョン・ウー
[アクション監督]コリー・ユン
[音楽]岩代太郎
[出演]トニー・レオン/金城武/チャン・フォンイー/チャン・チェン/フー・ジュン/ヴィッキー・チャオ/中村獅童/リン・チーリン/ユウ・ヨン

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