『ミスター・ノーボディ』(トニーノ・ヴァレリ)

ミスター・ノーボディ
「Who are you?」
「Nobody」

今回は、セルジオ・レオーネ第4弾『ミスター・ノーボディ』です。

製作・原案のレオーネ、監督は愛弟子トニーノ・ヴァレリに任せています。DVDのジャケットやレオーネの発言によると、冒頭の早撃ちやクライマックスの大決闘などはレオーネ自身が監督したとなってますが(インタビューでテレンス・ヒルもそう言ってましたが)、トニーノ・ヴァレリは真っ向から否定。
この作品以降の二人の仲は最悪なようです…。(詳しくはDVD収録のコラムに)
それでも、酒場でのグラス撃ちのシーンなど、一部シーンを撮影していることは間違いないようです。

それはさておき、『ワイルドバンチ』vsワイアット・アープという夢の対決が拝めるのがこの作品。

少し説明がいりますが、『ワイルドバンチ』といえばもちろんペキンパーの代表作ですが、“ワイルド・バンチ”というのは、実は実在した無法者集団。

そして、『荒野の決闘』でワイアット・アープを演じたのがヘンリー・フォンダ。

そのヘンリー・フォンダが扮するのが、西部一の早撃ちガンマン=ジャック・ボーレガード。
もういい歳なので、無法の世界を引退し、ヨーロッパで隠居しようと考えています。

そんな彼の前に現れたのが、陽気な風来坊のノーボディ(テレンス・ヒル)。
ノーボディはボーレガードを“伝説”のガンマンに仕立てるべく、150人の“ワイルド・バンチ”にたった一人で立ち向かうように仕向けます。
1対150です。

引退したいボーレガードは乗り気ではありませんが、結局ノーボディの思惑通り闘うはめに。
しかもそのノーボディは、目の前で高見の見物。

目の前に大平原が広がる線路脇で、老眼鏡をかけ、愛用の拳銃と二丁のライフルを手に、一人待ち構えるボーレガード。

地平線の彼方、かすかに聞こえる馬の足音が、少しずつ、少しずつ近づいてきます。

ミスター・ノーボディ ヘンリー・フォンダ

そして、ついに姿を現す“ワイルドバンチ”。地平線の彼方から横一列になって現れる150人の“ワイルドバンチ”、その様はまさに壮観。
バックには、エンニオ・モリコーネの泣きのメロディラインに痺れる「Mucchio Selvaggio」。

迫り来る“ワイルド・バンチ”を待つフォンダの後ろ姿を捉えながらカメラがクレーンで上がっていく長回しは、『ウエスタン』のクラウディア・カルディナーレ到着場面に匹敵する名場面。

1対1のベストバウトは、『ウエスタン』のヘンリー・フォンダvsチャールズ・ブロンソンだと思っていますが、こちらはなんといっても1対150です。

バックに流れる「Mucchio Selvaggio」のかっこよさも尋常ではなく、この決闘の前にも何度か“ワイルド・バンチ”が荒野を駆けるシーンがあって、その度にこの曲が流れるわけですが、何も起きなくていいから、ただこの曲をバックに馬を走らせる“ワイルドバンチ”を1時間でも観ていたい。

それくらい、“ワイルドバンチ”のビジュアル、150頭の馬の足音、舞い上がる砂埃、モリコーネの音楽、その奇跡的なコラボレーション。

そして、ただの風来坊ではなかったノーボディは、ボーレガードに負けず劣らずの早撃ち。
最後は、ついにこの両雄が相まみえることになります。

ミスター・ノーボディ ヘンリー・フォンダミスター・ノーボディ テレンス・ヒル

この映画ちょっとしたお遊びもきいていて、思わず笑ってしまうような早回しが使われていたり、『ウエスタン』の「復讐のバラード」のワンフレーズがそのまま使われていたり、ナホバ族の墓場の墓碑名の一つに“サムペキンパー”という名前が出てきます。(墓碑名にペキンパーの名前を使ったのは、レオーネの『ワイルドバンチ』への複雑な思いからのようです)

あと、からくり屋敷でノーボディが無法者と闘う時に、鏡を使ってノーボディが8人になるシーンがあるなど、銃を使わないアクションシーンはかなりアイデア満載。

他にも、冒頭の床屋のシーンは『ウエスタン』のオープニングを、フォンダとヒルの帽子の飛ばし合いは『夕陽のガンマン』を思い起こさせます。

ジャック・ボーレガードのこの名言にも触れないわけにはいきませんね。
「上着を着てない床屋はニセ者だ」
意味するところは観てのお楽しみ。

ヘンリー・フォンダは貫禄十分ですし、テレンス・ヒルのユーモラスな魅力も全開。
ですが、なんといってもクライマックスの1対150の大決闘。

NobodyはいつしかSomebodyとなり、そして伝説は引き継がれていく…。

あのジョン・ウーをして「最も好きなウエスタン」と言わしめた、マカロニウエスタン後期の名作。

 

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[原題]Il mio nome e Nessuno
1973/イタリア・フランス・西ドイツ/115分
[監督]トニーノ・ヴァレリ
[製作]セルジオ・レオーネ他数名
[原案]セルジオ・レオーネ他数名
[音楽]エンニオ・モリコーネ
[出演]ヘンリー・フォンダ/テレンス・ヒル/レオ・ゴードン/ジェフリー・ルイス/R・G・アームストロング

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