『キッド』(チャールズ・チャップリン)

キッド

今回は、初登場のチャップリンです。

『黄金狂時代』『チャップリンの独裁者』『モダン・タイムス』『街の灯』などなど、すべてが大傑作ですが、それらも後々紹介するかもしれませんが、彼の作品の中で、“好き”という点ではこれが一番かもしれない『キッド』です。

制作はなんと1921年。当ブログでは、『カサブランカ』の記録を大きく塗り替えて、最も古い作品ということになります。
サイレントですので、台詞はもちろんまったくなくて、字幕が少しつくだけですが、その分映像ですべてを表現するしかないわけで、ちょっとした仕草やシーンがほんとによくできていて、“目”ですべてをわからせてくれます。

慈善病院みたいなところから子供を抱いて出てきた女性、彼女に向けられた看護婦さんの嘲笑、そのたった一瞬の表情で女性の境遇が一発でわかります。
今なら看護婦さん同士が見え見えの台詞を喋るでしょう。それよりも遥かに効果的。

場面が切り替わって、絵描きが一枚の写真を燃やしてしまいます。
その写真に写っているのが例の女性。

このたった2つのシーンで二人の関係をわからせてしまうあたり、ほんとに見事としか言いようがありません。

赤ん坊を泣く泣く置き去りにした女性。
少し色々ありますが、そこへチャップリン登場。

捨てられた赤ん坊を拾い上げたものの、拾っても自分が困ると思いもう一度捨てようとしたところにおまわりさんが。
慌てて拾うチャップリン。全編に渡って登場するおまわりさん、いい味出してます。

なんとかして赤ん坊を置いて帰ろうとしたものの、結局家に連れて帰ってきてしまったチャップリン。
家といっても貧しい長屋みたいなものです。

自分のシャツを切っておしめを作ったり、チャップリンの奮闘振りは観ていてほんとに微笑ましい。
ハンモックみたいに吊るした布の上に赤ん坊を乗せ、天井から吊るしたポットみたいなものでミルクを飲ませるやり方最高です。

そして「5年後」の字幕の後、いよいよ映画史上屈指の子役ジャッキー・クーガン登場。
天才子役などという言葉がよく使われて、最近ではオスメント君などもそう呼ばれていましたが、レベルが違います。
この可愛さはほんとに反則。帽子のかぶり方も最高。

キッドが朝ごはんの用意をして、二人でパンケーキを食べるシーン。
チャップリンが皿に分けたものの、自分の方が1枚少ないことに不満を表すキッド。
チャップリンはちゃんとその1枚を半分に切って分けてあげます。
自分もあのパンケーキ一緒に食べたい!

そして、有名な“商売”。キッドが石をぶつけてガラスを割り、ガラス屋に扮したチャップリンがひょっこり現れて直します。

初めは成功していましたが、キッドが石を投げようとしたところをおまわりさんに見つかり、石で遊ぶ振りをして必死にごまかしているところに(このごまかすシーンもほんとに可愛い!)、“仕事”を終えたチャップリンが帰ってきたものですから、キッドは喜んでチャップリンにしがみつきます。

それでも、おまわりさんが見ている手前、“仲間”だと思われたら終わりなので、しがみつこうとするキッドをチャップリンが足で払いのけようとします。
このシーンはほんとに最高!

キッド チャップリン

キッドが近所の子供と喧嘩をするくだりも外せません。
キッドは見事に喧嘩に勝って、チャップリンも得意げな顔ですが、そこにやられた子供の“兄貴”登場。

チャップリンに対して、「お前の子供がもし勝ったらお前を殺す」と脅したものですから、チャップリンはびっくり。
何も知らないキッドはまたまたコテンパンに相手をやっつけてしまいますが、チャップリンは自分がやられてはたまらないと、キッドを自ら押さえつけて、負けて泣いている相手の子供の手を挙げて、相手が勝ったように振舞います。

誰より可愛いキッドが勝って嬉しくてたまらないチャップリン、それなのに相手の子供の手を挙げることしかできないチャップリン…。

冒頭で赤ん坊を捨てた女性は、今やオペラ歌手として大成功しているわけですが、片時も子供のことを忘れたことはありません。
それでもついに諦めて、代わりに、たくさんの玩具を持っては貧しい家へ恵みに行きました。

そこでキッドとの再会。
しかし、女性も、もちろんキッドも、お互いが親子だなどとわかりようもありません。

キッドが病気にかかったことをきっかけに、いつまでも貧しいチャップリンに子供を育てさせておくわけにはいかない、ちゃんとした養育をということで、施設の人がキッドを引き取りにきます。

2人相手に必死になって抵抗するチャップリン。
しかし抵抗空しくキッドは車に乗せられ…。
手を差し出して泣きわめくクーガン坊や、このシーンは文字通り号泣…。

ラストは伏せておいたほうがいいでしょう。

トーキーになった後も、『モダン・タイムズ』『街の灯』などサイレント形式の傑作を撮ったチャップリンですが、この映画でも喜怒哀楽、すべてを動作と表情だけで表してしまうその表現力はほんとに別格。

大げさな展開などなくても、大げさな台詞などなくても、というよりも台詞は一言もなくても、台詞が聞こえてくるくらいお互いの感情が伝わってきて、彼ほど観る者を感動させられる人もいないでしょう。

喜怒哀楽、すべてがつまっているのが彼の映画ですが、そんな彼の映画の一番の特徴は、どんな時にも失わない心の豊かさと溢れんばかりの優しさ。
この映画でもそれは痛いほど伝わってきます。

それでもこの映画はやっぱり、チャップリンが脇役に思えてしまうほど、なんといってもジャッキー・クーガン。その反則的な可愛さ、そして神懸り的ともいえる演技。

そして、親子の絆を描いた映画という点でも、この映画が作られてからもう80年以上も経っていますが、今でもこれを超える作品はないでしょう。

なお、最初に字幕で「皆さんはこの映画をほほえみと一粒の涙とともにご覧になるでしょう」と出ますが、言うまでもなく“一粒”では済みませんでした…。

傑作とかそういうレベルを超えています。必見。

 

キッド The Kid [Blu-ray]

[原題]The Kid
1921/アメリカ/52分
[監督]チャールズ・チャップリン
[出演]チャールズ・チャップリン/ジャッキー・クーガン/エドナ・パーヴィアンス

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