『ケス』(ケン・ローチ)

ケス

今回は、もはや当ブログの常連となったイギリス映画から。イギリス映画ファンを自認しておきながら、この作品を紹介しないわけにはいきません。
日本での知名度はいまいちながらヨーロッパでは絶大なる評価を得ている名匠ケン・ローチ。彼の代表的傑作『ケス』の登場です。

日本公開は1996年でしたが、撮られたのはなんと1969年。
そのことにまずびっくり!まったく古さを感じさせません。

以来ずっと一貫して「底辺にいる人々の日常」を描いてきた彼ですが、この作品の主人公も、どこにでもいそうな15歳の少年と、そしてハヤブサ。
「ハヤブサは飼い慣らせない。人に服従しないから好きなんだ…」
とても印象的な少年の言葉です。

クラスでも落ちこぼれで、いつもひとりぼっちの彼。
唯一の友達はハヤブサでした。

ケス ケン・ローチ

国語の授業の時、先生に何か話をするように言われた彼は、ハヤブサの話を始めます。
この時の彼の表情はほんとに楽しそうで、キラキラと輝いています。
それまでの彼の表情とは全然違って、その少年にとってハヤブサの存在がいかに大きいかがよくわかる素敵なシーンです。

その他、体育の授業のサッカーのシーン、ハヤブサが飛び立つシーンなど、印象的なシーンがたくさんありました。

ケス ケン・ローチ サッカー

そして、ラスト。えっ!?突然の幕切れです。
決してハッピーな結末ではありません。

ハリウッド的な「読める」ハッピーエンドに慣れきっている方には、ちょっと受け入れがたい結末かもしれません。

しかし、たまにはこういうラストシーンもあっていいような気がします。
夢を見させるのが映画ですし、素敵なハッピーエンドももちろん大好きです。
先ほど「底辺にいる人々の日常」と書きましたが、そういった人々の暮らしがいつもハッピーエンドなわけはありません。現実はそんな甘いものではありません。

夢を見させるのが映画なら、人々の日常をありのままに切り取るのもまた映画。
そういう意味で、ケン・ローチほど現実に目を向け続けている監督はそうはいません。

現実をそのまま切り取っているからといって、ひたすら暗いかといったらそうでもありません。
人々に対する温かい眼差しと、ユーモアも忘れません。
『フル・モンティ』の時にイギリス映画の素晴らしさとして「悲哀とユーモアのバランス」という言葉を使いました。
その礎を作った一人は間違いなく彼だと思います。

 

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[原題]Kes
1969/イギリス/112分
[監督]ケン・ローチ
[出演]デヴィッド・ブラッドレー/コリン・ウェランド/リン・ペリー

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