「仲良くしよう、ここはお前の友達に聞いた」
「友達はない」
「悲しい歌は今年は流行しないぞ」
今回は、ウォルター・ヒル初期の名作『ザ・ドライバー』です。
強盗犯などが現場から逃げる際の、プロの逃がし屋にライアン・オニール。
パトカーが何台も出動し、取り囲んだように見えても、余裕でその上をいき楽々と逃げきる、超一流の腕前。
かなり長い時間が割かれている、カーチェイスシーンも本作品の大きな見所。
しかも、ただぶっ飛ばすだけがカーチェイスだけじゃないとばかりに、終盤の倉庫のような場所でのカーチェイスが秀逸。
西部劇で、向かい合っての早撃ちの決闘ではない、隠れて様子を伺いながらの一騎打ちがありますが、あれの車バージョン。
とはいっても、最後は真っ正面からフルスロットルですが。
何度も彼に痛い目に会わされている警察の中で、逮捕に執念を燃やす一人の刑事にブルース・ダーン。
執念を燃やすと言っても、彼自身が言っているように、ゲーム感覚に近く、いかにして相手の上をいけるか、それを楽しんでいる感じ。
負けるのは何よりも嫌いなので、時に凄みを見せますが。
警察=善、犯罪者=悪という単純な構図で捉えたり、役者の名前から考えるなら、このキャスティングは逆でしょう。
『ある愛の詩』のライアン・オニールと、『ブラック・サンデー』の“あの”ブルース・ダーンですから(笑)
それをあえて逆にした時点で、この映画は半分成功したようなもの。
孤高でクールなライアン・オニールのかっこよさ。
ただの善良な刑事ではない、男と男の戦いに執念を燃やすブルース・ダーン。
ただ、この二人だけではさすがに少し弱い。
そこでもう一人。
二人の対決に絡んでくる、謎の美女にイザベル・アジャーニ。
ここまで揃えば十分。
この映画、3人についての詳しい背景について、細かく説明していないところがいい。
背景どころか、3人には名前すらありません。
エンドクレジットを見ればわかりますが、3人の役名はそれぞれ、“The Driver”“The Detective”“The Player”。
それでいて、3人が生きてきた人生は、それぞれの立ち振る舞いに十二分に滲み出ていて、説明過剰な映画が氾濫する最近のことを思えば、さすが70年代の映画。
ラストの巧い終わり方にもあるように、死力を尽くして腕を競った二人も、ロサンゼルスの夜の闇に生きる一人の人間に過ぎない。
“The Driver”であり“The Detective”である二人ですが、それ以上でもそれ以下でもなく、名前は確かに必要ない。
また別の場所でも、別の“The Driver”と“The Detective”は腕を競い合っていることでしょう。
主役ですら脇役でしかなく、真の主役はロサンゼルスの夜の闇。
その闇を見事に切り取ったのは、『殺しの分け前/ポイント・ブランク』『シンシナティ・キッド』などの、名手フィリップ・H・ラスロップ。
まだ存分に切れ味が残っていた頃のウォルター・ヒルによる、西部劇の香りのする痺れる映画。
“西部劇の香り”って前にもどこかで書いたなぁと思ったら、1978年ということは、同じく西部劇を車でやった、師匠サム・ペキンパーの『コンボイ』もこの年ですね。
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[原題]The Driver1978/アメリカ/91分
[監督・脚本]ウォルター・ヒル
[撮影]フィリップ・H・ラスロップ
[出演]ライアン・オニール/イザベル・アジャーニ/ブルース・ダーン
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