今日は11月7日。
映画ファンにとっては、特別な日ですよね。
1980年11月7日、不滅のスーパースター、スティーヴ・マックィーンが亡くなった日。
というわけで、『華麗なる賭け』『タワーリング・インフェルノ』に続いて、スティーヴ・マックィーン第3弾『シンシナティ・キッド』です。
監督は『華麗なる賭け』と同じノーマン・ジュイソン。
自他共に認める“スタッド・ポーカー”の名手キッド(マックィーン)。
彼の暮らすニュー・オリンズに、長年に渡ってこの世界の頂点に君臨する“ザ・マン”ことランシー(エドワード・G・ロビンソン)が現れる。
ついに訪れたNo.1への挑戦のチャンス、キッドの“ザ・マン”への挑戦が今始まろうとしていた…。
こう書くとポール・ニューマンの『ハスラー』と同じような感じですが、マックィーンファンの管理人の好みは断然こっち。
『大脱走』『荒野の七人』『ブリット』『ゲッタウェイ』などが、彼の“動”の魅力が炸裂した傑作であるのに対し、この作品は“静”の魅力を存分に楽しめる逸品。
アクションシーンなんかなくても、ただ街を歩くだけで、ただ煙草に火をつけるだけで、もうそれだけで絵になるかっこよさ。
ズームを多用したポーカーの場面の緊迫感、心を読み合う目での闘い、流れる一滴の汗、固唾を飲んで見守るギャラリー。
“ザ・マン”の術中にハマり、一人また一人とメンバーが減っていき、ついに二人きりになるキッドとランシー。
自信に満ち溢れたマックィーンの目、マックィーンを正面から受けきるエドワード・G・ロビンソンの圧倒的な存在感。
女性陣も申し分なく、クリスチャン(チューズデイ・ウェルド)の可憐さ、メルバ(アン・マーグレット)の小悪魔的魅力。
クリスチャンはキッドの大一番の邪魔をしたくないので田舎に帰りますが、思いもかけずキッドが田舎を訪ねてきてくれた時の、驚きと喜びに溢れたあの笑顔。
両親に紹介するものの、キッドは名の知れたギャンブラー。
当然親はいい顔をせず、流れる冷たい空気。
クリスチャンがキッドに父親にトランプの手品を見せてあげてよと言っても、用があるからと席を外そうとする父親。
どうしてもと言われ、キッドが広げたトランプの中から1枚を引くと、一発で言い当てるキッド。
初めて笑顔を見せる父親。
凄いから母さんもやってもらいなよと妻を呼び寄せると、またもや一発で言い当てるキッド。
あからさまに冷たい態度をとっていた母親も、一緒になって笑います。
敬遠された理由がトランプなら、心をつかんだ理由もまたトランプ。
それ以外何もないキッドの人生を見事に表現しています。
メルバはキッドの親友シューター(カール・マルデン)の妻。
しかし、退屈な夫に満たされず、キッドを誘惑。
相手にしないキッドですが、ある時ぐっと抱き寄せてキス。
メルバが喜んだのも束の間、お尻を叩いて軽くあしらい去っていくキッド。
この時の、してやられたという表情が何とも言えず魅力的。
親友キッドからの信頼と顔役からの脅迫との間で揺れ動くシューターも見事。
誰よりも実力でキッドにランシーに勝って欲しいと願っていながら、脅迫されディーラーとしてキッドに手を貸すことに。
しかし、それをキッドに気づかれます。
自分の考えでやってるんじゃない、仕方ないんだ、わかってくれ。
結局、キッドにディーラーを外されてしまいます。
その時のキッドを見つめる目。
さらに、オープニングとエンディングで対をなす、キッドと少年とのコイン投げの賭け。
結果は書きませんが、キッドの境遇と心境を見事に映し出した屈指の名場面。
さらに極めつけは、エンディングに流れるレイ・チャールズの「The Cincinnati Kid」。
全般的にかっこいいですが、イントロから“He came with the name Cincinnati”という歌い始めにかけてが死ぬほどかっこいい。
このように、もう非の打ち所がない傑作なんですが、全てを台無しにしているのがラストシーン。
ノーマン・ジュイソン監督の音声解説によると、監督の反対を押しきってMGMのお偉方やプロデューサーが後から追加したとのこと。
監督もさぞ無念だったことでしょう。
監督に最終編集権がないことがほとんどのハリウッドでは、時としてこういう最悪なことが行われますが、よりにもよってマックィーンの傑作になんてことをしてくれたのか。
リドリー・スコット監督みたいに、“ディレクターズ・カット”を出してくれないかなぁ。
これでも十分に傑作ですが、マックィーンの顔にカメラが寄ってレイ・チャールズの歌が流れ出すというオリジナル・バージョンだったなら、文句なしの傑作になったことでしょう。
没後25周年、その輝きは失われるどころかますます増していくスティーヴ・マックィーン。
彼の命日に、この駄文を捧げます。
シンシナティ・キッド [DVD]
[原題]The Cincinnati Kid
1965/アメリカ/103分
[監督]ノーマン・ジュイソン
[音楽]ラロ・シフリン
[主題歌]レイ・チャールズ
[出演]スティーヴ・マックィーン/エドワード・G・ロビンソン/カール・マルデン/チューズデイ・ウェルド/アン・マーグレット
待ってよかった…。 発売からわずか半年、『シンシナティ・キッド』廉価版発売。 やっぱりワーナーや20世紀FOXは待てば廉価版が出るので、最初に出た時には買えないですね。3980円がわずか半年で1500円ですから。 2月[…]
大好きな『シンシナティ・キッド』の輸入盤サントラLPを中古レコード屋のサントラコーナーで見つけ、速攻でレジに。 A面1曲目が、レイ・チャールズの歌う、例のかっこよすぎる主題歌「The Cincinnati Kid」。相変わらず激渋。 […]